広島地方裁判所 昭和46年(行ク)3号 決定 1971年12月10日
申立人 山門和昭
被申立人 広島刑務所長
訴訟代理人 平山勝昭 外四名
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一、申立の趣旨および理由
1 申立の趣旨
被申立人が申立人に対してなした左記の手紙の発信許可願をそれぞれその頃不許可にした処分の効力を右処分の取消訴訟の第一審判があるまでこれを停止する。
(一) 昭和四五年一一月二八日上田孝子宛の手紙
(二) 昭和四六年一月二二日右同
(三) 同年三月二五日荒岡征夫宛の手紙
(四) 同年四月三日福田みどり宛の手紙
2 申立の理由
(一) 申立人は、現在広島刑務所に服役中のものであるが広島高等裁判所に係属している同裁判所昭和四五年(う)第三二五号傷害被告事件の被告人でもある。
(二) 申立人は被申立人に対し、申立の趣旨記載のように私信の発信を願い出たのに、被申立人はその頃いずれもこれを不許可とする旨の処分をした。右手紙はその名宛人らに対し、申立人が前記傷害被告事件につき私選弁護人の選任および選任費用の捻出につき相談し、被告事件の公判傍聴を依頼するものである。
(三) 右処分により、申立人は右訴訟における防禦権を十分に行使できず、その結果大きな損害を拘むる虞れがある。
二、被申立人の意見<省略>
三、当裁判所の判断
1 本件疎明によれば、申立人が、前記日時頃前記各手紙の発信許可願を被申立人に提出したこと、しかるに被中立人がこれらの発信をその頃不許可にしたこと、そこで申立人が被申立人を相手として当裁判所に右処分の取消訴訟を提起したことが認められる。
2 さて申立人の申立の趣旨は、右不許可処分の効力を停止するというのであるが、たとえ右各不許可処分の効力を停止したとしても、その効果としては、たかだか申立人から右各手紙の発信許可願が出された状態に戻るだけで、直ちに右願が許可されたと同じ状態が作り出されるわけではなく、また、被申立人においてこれを許可しなければならない義務を負うものでもない。そうだとすれば右各不許可処分の効力を停止してみても、申立人主張の回復困難な損害が仮にあるとしても直ちに避けられるわけではない。
よつて本件申立はその緊急性を欠き失当として却下を免れない。よつて申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 加藤宏 海老沢義広 野田武明)